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岐阜地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告が平成五年四月二〇日訴外御園開発株式会社に対し岐阜県指令森保第一四号によってした森林法第一〇条の二に基づく開発行為の許可処分を取り消す。

第二 事案の概要

一  本件は、訴外御園開発株式会社(以下「御園開発」という。)による岐阜県恵那郡山岡町(以下単に「山岡町」という。)馬場山田地区一帯の山林をゴルフ場として造成するための開発行為(以下、右開発行為を「本件開発行為」といい、造成されるゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の許可申請に対し、被告が平成五年四月二〇日に岐阜県指令森保第一四号によって森林法第一〇条の二に基づく許可処分を行った(以下「本件許可処分」という。)ことから、後記三1(三)(1)の立場にあるとする原告らが、本件許可処分は実体的にも手続的にも同条に違反する違法な処分であり、それにより原告らの権利や利益が侵害されるおそれがあるとして、その取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  被告は、平成五年四月二〇日、御園開発の山岡町馬場山田地区一帯の山林をゴルフ場として造成するための開発行為(本件開発行為)の許可申請に対し、岐阜県指令森保第一四号によって森林法第一〇条の二に基づく許可処分(本件許可処分)を行った。2 本件許可処分は、本件開発行為が森林法第一〇条の二第二項の定める除外事由に該当せず、また、同条第一項の定める手続を経たとしてなされたものである。

三  争点

本件の争点は、原告らに本件許可処分の取消しを求める原告適格があるか否か、本件訴えが固有必要的共同訴訟に該当するか否か、本件許可処分が実体的あるいは手続的に違法なものであるか否かにあり、これらの点に関する当事者の主張の概要は、次のとおりである。

1  原告ら

(一)  原告適格の有無について

(1) 森林法は、「森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」(第一条)という一般的目的のもと、開発行為については、第一〇条の二第二項において、開発行為の許可申請を受けた都道府県知事は「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(第一号)、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」(第一号の二)、「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(第二号)、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」(第三号)のいずれにも該当しないと認めるときはその申請を許可しなければならないと開発許可の基準を定めており、開発行為許可制度が当該森林の周辺地域における「災害の防止」、「水害の防止」、「水の確保」及び「環境の保護」を行いつつ、森林の有効利用を図ろうというものであることは明らかである。

(2) そして、森林法は、右にいう災害等のおそれを当該森林の存する地域との関係において問題としているのであるから、開発行為許可制度が森林に対する無秩序な乱開発が開発地域のみならず周辺地域において災害、水害、水源枯渇及び環境悪化といった地域住民に対する被害をもたらしてきたことに鑑み、地域住民に及ぼす災害等の被害を未然に防止することを最大の目的としていることは明らかである。

(3) そのため、森林法第一〇条の二第四項は、開発行為の許可に条件を附することができるとして、都道府県知事が開発する者をして確実に同条第二項の規定を遵守させるための手段を与え、同法第一〇条の三は、都道府県知事に監督権を与えて、開発する者に対する開発行為の中止命令等の手段を与えている。

(4) なお、「森林法及び森林組合合併助成法の一部を改正する法律の施行について(開発行為の許可制及び伐採の届出制関係)昭和四九年一〇月三一日四九林野企第八二号農林事務次官から各都道府県知事あて通達」(最終改正平成三年七月二五日)の別紙「開発行為の許可基準の運用について」は、開発許可の要件として「開発行為に係る森林につき開発行為の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を申請者が得ていることが明らかであること」と規定しているが、これは、これらの権利主体が開発行為により被害を被ることを、これらの者からの同意を要求することにより予め防止するねらいが存する趣旨と解される。

(5) したがって、開発行為許可制度が単なる一般的・抽象的な森林の公益的機能ばかりでなく、近隣住民の個別的・具体的利益をも保護するものであることは明らかである。

(6) 本件において、原告らは、後記のとおり本件開発行為によって直接的な被害を被る蓋然性が高い。したがって、「個々人の個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益」には解消されない個別的具体的利益の侵害が問題となるのであり、原告らは本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しているから、原告らには右取消しを求める原告適格がある。

(二)  固有必要的共同訴訟の成否について

原告度會錦吾(以下「原告度會」という。)及び同後藤敏(以下「原告後藤」という。)は、後記のとおり本件土地の入会権者としての立場からも本件許可処分の取消しを求めているが、右訴えは、いずれも自己が入会権者たる資格に基づき個別的に認められる使用収益権に基づくものであって、入会権そのものに基づくものではないから、固有必要的共同訴訟ではない。したがって、原告度會及び同後藤は、各自が単独で自己の使用収益権の妨害の排除を請求することができる。

(三)  本件許可処分の違法性の有無について

(1) 原告ら

ア 原告度會及び同後藤は、入会地である別紙第一及び第二物件目録記載の各土地(以下、別紙第一物件目録記載の各土地を「第一土地」といい、別紙第一及び第二物件目録記載の各土地を一括して「本件土地」という。)の入会権者である。

また、同原告らは、本件ゴルフ場造成予定地に近接して居住し、その居住地内における井戸から湧出する自然水を飲料水等の生活水として利用するとともに、原告度會は自宅近隣の山岡町馬場山田字坊田一三六四番地の一など四筆の土地において、原告後藤は本件ゴルフ場造成予定地直下の山岡町馬場山田字瀧ノ上一〇六七番地など約一〇筆の土地において、それぞれ本件ゴルフ場造成予定地の山林を水源とする灌漑用水を利用して米作を行っている。

更に、原告後藤は、本件ゴルフ場造成予定地に取り囲まれた山岡町馬場山田字真菰一一三三番八の土地(畑、九五二平方メートル)を所有している。

イ 原告前川幸雄、同池野雅道、同永田智男及び同伊藤栄(以下右原告四名を一括していうときは、「原告前川ら」という。)は、別紙立木一覧表のとおり、それぞれ第一土地上に立木を所有している。

ウ 原告山村晃三(以下「原告山村」という。)は、山岡町上手向字石平前一八九番など四筆の土地において本件ゴルフ場造成予定地を水源とする灌漑用水を利用して低農薬、低化学肥料の愛農米を生産している。

(2) 本件許可処分は、次のとおり、森林法第一〇条の二第二項の定める許可基準に明らかに違反し、かつ、適切な裁量権の行使がなされておらず、取消しを免れない。

ア 水害等の災害

小里川は、山岡町北東部に源を発し、町内を北東から南西方向へ流れる川であるが、本件ゴルフ場造成予定地を含む小里川上流の森林地帯は、荒廃が進行し、土地の保水力及び緊縛力が著しく低下しているため、小里川水系では従来から水害が頻繁に発生している。その上更に本件ゴルフ場が造成されることになると、長期間に渡り広範囲で多量の切土・盛土がなされ、巨大な規模で土砂移動がなされることになるから、工事期間中の当該地域の土地の保水力及び緊縛力がほとんど消滅することになる。したがって、本件開発行為は、本件ゴルフ場造成予定地を含む小里川流域において、「土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれ」(森林法第一〇条の二第二項第一号)あるいは「水害を発生させるおそれ」(同項第一号の二)がある。右災害や水害が発生した場合、本件ゴルフ場造成予定地の近隣に居住し、米作を行っている原告度會及び同後藤は被害を受けることになる。

イ 飲料水や農業用水の減少及び汚染

本件ゴルフ場造成予定地を含む森林地帯は小里川の上流地域をなしており、山岡町民の飲用水や農業用水の水源地帯をなしている。原告度會及び同後藤の井戸も小里川水系に起源する地下水を利用している。

ところで、ゴルフ場の造成により土地の保水力は大幅に低下するため、晴天が続けば飲料水や農業用水の減少や渇水をもたらし、長期的には地下水位の低下をもたらすことになる。また、ゴルフ場に大量に散布される農薬、化学肥料及び土壌改良剤等は、河川へ流入し、河川水、地下水、農業用水を汚染し、かつ、富栄養化させることになる。したがって、本件ゴルフ場が造成された場合、飲料水や農業用水が減少・枯渇したり、農薬等に汚染されたりして、原告度會及び同後藤の飲料水の安定的確保が困難になるとともに、本件ゴルフ場造成予定地周辺で農業を営んでいる原告度會、同後藤及び同山村の安定した農作物栽培に悪影響が及ぶおそれがある(特に、低農薬、低化学肥料の愛農米を販売している原告山村にとって、上流で農薬を多用するゴルフ場が開発されることは死活問題となる。)。

このように、本件ゴルフ場の造成により水源の汚染や水量の減少のおそれは非常に高く、本件開発行為は、「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」(森林法第一〇条の二第二項第二号)がある。

ウ 環境の悪化

本件開発行為は、次のとおり、「環境を著しく悪化させるおそれ」(森林法第一〇条の二第二項第三号)がある。

(ア) ゴルフ場の密集

山岡町においては、本件ゴルフ場のほか既設のゴルフ場が二か所、申請手続中のゴルフ場が二か所あり、それらの面積を合算すると、山岡町の総面積に占める割合は十数パーセント、山岡町の山林面積に占める割合は三十数パーセントにのぼることになる。このようなゴルフ場の一地域への密集は、地域の環境、住民の暮らし、将来計画等に重大な影響を及ぼすにもかかわらず、本件許可処分はこれを考慮していない。

(イ) 農薬等による汚染

本件ゴルフ場に散布される農薬等は、水を汚染し(前記イのとおり)、また、飛散、揮散して大地や大気を汚染するので、本件ゴルフ場造成予定地の近隣に居住する原告度會及び同後藤に身体被害を生じさせるおそれがある。したがって、農薬等の汚染源に対する考慮がされるべきであるにもかかわらず、本件許可処分においては、一部農薬についての使用基準を示したのみであり、農薬以外のその他汚染源についての総合的・効果的な対策がなく、何らの総量的規制がとられていない。

(ウ) 自然環境の破壊

本件開発行為により、森林が大規模に伐採、造成され自然環境が破壊されることは、この地に住む者にとっては勿論のこと、生態系全般にも計り知れない損害であり、一旦自然環境が損なわれれば、回復困難となる。また、法に定める基準適合性の評価のためには、鳥類や魚類への影響調査、評価が最低限必要不可欠である。しかるに、被告は、これを自ら実施せず、事業者にも実施させなかった。

(3) また、本件許可処分は、次のとおり、森林法一〇条の二第一項の定める手続に実質的に違反する。

ア 本件開発行為の許可申請手続において、被告から意見を求められた山岡町長は「住民一致で誘致している」旨の意見書(平成元年一二月二六日付け)を提出したが、これは原告らを含む地元住民らの意向に反するものである。

イ 本件ゴルフ場造成予定地に含まれる本件土地は入会地であるから、右入会地の使用に関し入会権者全員の同意が必要であるが、原告度曾及び同後藤は同意をしていない。したがって、本件ゴルフ場が造成された場合、同原告らの本件土地に対する使用収益権が侵害されることになる。

ウ 原告後藤は土地所有者として、原告前川らは立木所有者として本件開発行為に同意をしていない。したがって、本件ゴルフ場が造成された場合、山岡町馬場山田字真菰一一三三番八の土地は本件ゴルフ場の中に取り残されて孤立し、原告後藤が右土地を管理することができなくなるし、原告前川らが所有している第一土地上の立木が伐採され、同原告らの立木所有権が侵害されることになる。

エ 本件開発行為のように自然に重大な影響を与える開発行為については、条例上の規定がなくとも、環境アセスメントの実施が必要不可欠であるが、本件開発行為においてはこのような手続を欠いている。

2  被告

(一)  原告適格の有無について

(1) 行政庁の処分に対し取消しを求めることができる者は、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消し等によってこれを回復すべき法律上の利益を持つ者に限られるべきである。そして、法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである。

(2) 森林法は、第一条において、同法の目的を森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することと規定しており、同法が個人の権利ないし具体的利益を直接保護するものでないことは明らかである。

(3) ところで、森林法第一〇条の二においては、保安林以外の森林にあっても、それが国民生活の安定と地域社会の発展に少なからぬ役割を有していることに鑑み、開発行為を行うに当たってはこれらの森林の有する機能を阻害しないよう適正に行うことが必要であるという観点から、保安林制度と連携を図りつつ、森林の土地の適正な利用が確保されるよう開発行為を知事の許可にかからしめている。この開発行為の許可は、森林法が目的としている森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、災害の防止、水の確保、環境の保全等森林の現に有する公益的機能の確保を図ることを目的としており、個々人の個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益保護を目的としていること(同法第一〇条の二第五項も、開発許可の条件は森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限のものに限り、かつその許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならないと規定し、同条の許可が公益的観点からなされるべきものであることを明らかにしている。)、他方、保安林制度では、保安林の指定に「直接の利害関係を有する者」は保安林の指定又は指定解除を農林水産大臣に申請でき(同法第二七条第一項)、右の者が意見書を提出して農林水産大臣に異議を申し出ることができる(同法第三二条第一項)と規定し、保安林については一般的公益と並んで個々人の個別的利益を保護していると解されるのに対し、開発行為許可制度においてはそのような個別的利益保護の規定が置かれていないことを併せて考えると、右許可は専ら森林が有する公益的機能の保全の観点からなされるのであって、森林法第一〇条の二の規定は個々人の個別的利益を保護する趣旨のものではないと解すべきである。

(4) したがって、仮に原告らが森林法第一〇条の二の規定が存在することにより利益を受けることがあったとしても、それは法による反射的利益にすぎないというべきである。

(5) また、入会林野は、その住民たる入会権者のみによって使用収益されるものであり、地区外の第三者が入ってきて利用することは入会権者の権利を制限することになるから認められない。したがって、原告前川らがその存在を主張する立木所有権は、仮に所有権取得原因があったとしても、そもそも認められない。

(6) よって、原告らは本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、原告らには右取消しを求める原告適格がないから、本件訴えはいずれも不適法である。

(二)  固有必要的共同訴訟の成否について

入会権は総有的権利であって、入会林野の管理処分の権限は入会集団に帰属し、個々の入会権者は入会集団の構成員として入会林野の管理処分に参与し、その構成員としての資格から入会林野を使用収益するという個人的な権利を有するにすぎず、入会権の管理処分機能に関する訴訟は、入会権者全員で提起すべき固有必要的共同訴訟であって、個々の入会権者に原告適格を肯定することはできない。したがって、原告度會及び同後藤が本件土地の入会権者としての立場から本件許可処分の取消しを求める訴えは、いずれも不適法である。

(三)  本件許可処分の違法性の有無について

原告らの本件許可処分に関する実体的、手続的な違法性の主張はすべて争う。

本件許可処分は、森林法第一〇条の二第二項に定める許可基準に適合し、また、同条第一項の定める許可手続を経てなされたものであり、実体的にも手続的にも違法性はない。

四  証拠(省略)

第三 争点に対する判断

行政事件訴訟法第九条は、取消訴訟の原告適格について規定する。同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうものと解すべきところ、当該処分の根拠となる行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁)。

そこで、以下右のような見地に立って、原告らが本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し、原告らに右取消しを求める原告適格があるか否かについて検討する。

森林法第一〇条の二は、開発行為許可制度について定めている。同条第一項本文は、地域森林計画の対象となっている民有林において開発行為をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないと規定し、同条第二項は、都道府県知事は、右許可の申請があった場合において、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(第一号)、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」(第一号の二)、「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(第二号)、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」(第三号)のいずれにも該当しないと認めるときは、右申請を許可しなければならないと規定している。

ところで、森林法は、その第一条において、同法の目的が「森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」にあることを明らかにしているが、同法が個人の権利あるいは具体的利益を直接保護することを目的とするものであるとの趣旨は、右の規定からは読み取ることができない。そして、開発行為許可制度について定める同法第一〇条の二においても、同法の右目的を受けて、第三項で「前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たっては、森林の保続培養と森林生産力の増進に留意しなければならない。」と規定して、森林の現に有する災害防止機能、水害防止機能、水源かん養機能及び環境保全機能を判断するに当たっては、森林の保続培養と森林生産力の増進に留意しなければならないとしていること、他方において、第四項で「第一項の許可には、条件を附することができる。」と規定しつつ、第五項で「前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならない。」と規定して、同条の許可が公益的観点からなされるべきものであることを明らかにしていることに照らして考えると、開発行為許可制度は、同法が目的としている森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、災害防止機能、水害防止機能、水源かん養機能及び環境保全機能等森林の現に有する公益的機能の確保を図ることを目的とするものであると考えるのが相当である。

そして、森林法は、保安林については、保安林の指定又は解除に「直接の利害関係を有する者」は森林を保安林として指定すべき旨又は保安林の指定を解除すべき旨を農林水産大臣に申請することができると規定(第二七条第一項)し、また、農林水産大臣が保安林の指定又は解除をしようとする場合には、右「直接の利害関係を有する者」がこれに異議があるときは、意見書を提出し、公開の聴聞手続に参加することができると規定(第二九条、第三〇条、第三二条)しており、保安林制度においては一般的公益と並んで個人の個別的利益をも保護していると解されるのに対し、開発行為許可制度においては右のような規定を置いていないことを併せ考えるならば、同法においては、開発行為の許否は専ら森林が現に有する前掲災害防止機能等の公益的機能の保全の観点からなされるのであって、同法は、前記の保安林の指定及び解除のように同法に明文の規定を置いている場合以外には直接これが帰属する個人の個別的利益を保護するものではないと解するのが相当である。

そうであるとすれば、原告らが個人として有すると主張する権利又は利益は、森林法によって「国土の保全」等の目的が実現されるに伴って生ずる一般的公益が保護される結果として確保される反射的利益にとどまり、これを侵害されるとする原告らは本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、原告らには右取消しを求める原告適格がないから、原告らの本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、いずれも不適法というほかはない。

なお、原告らは、御園開発が被告に提出し、被告が所持する本件開発行為許可申請書類一式、右開発行為に関する山岡町長の意見書及び被告が本件許可処分をするに際して作成した一切の書類の文書提出命令の申立てをしたところ、被告は、右文書のうち、事業区域位置図、利用計画平面図及び現況図(乙第二ないし第四号証)を任意に提出した。しかし、以上判示のとおり、原告らに原告適格が認められないから、原告らの原告適格との関係において右文書を取り調べる必要はないし、本件許可処分の違法性を取り調べる必要もない。したがって、右文書は、その「証すべき事実」との関係において取り調べる必要がないものであり、右申立てについてはこれを却下する。

よって、原告らの本件訴えをいずれも却下することとする。

(別紙)

第一物件目録

一 所在  恵那郡山岡町馬場山田字新道

地番  六二七番一

地目  山林

地積  四〇六六平方メートル

二 所在  同町馬場山田字管洞

地番  七二六番一

地目  山林

地積  三万四三一四平方メートル

三 所在  同町馬場山田字百田

地番  八〇〇番一

地目  山林

地積  三万五七〇二平方メートル

四 所在  同町馬場山田字石ケ洞

地番  八〇一番一

地目  山林

地積  一万一七〇二平方メートル

五 所在  同町馬場山田字石ケ洞

地番  八三八番一

地目  山林

地積  八八四二平方メートル

六 所在  同町馬場山田字小玉石

地番  八三九番一

地目  山林

地積  一九八三平方メートル

七 所在  同町馬場山田字小玉石

地番  八三九番一一

地目  山林

地積  二九七平方メートル

八 所在  同町馬場山田字小玉石

地番  八七五番一

地目  山林

地積  一九八三平方メートル

九 所在  同町馬場山田字五反田

地番  八七六番一

地目  山林

地積  二〇八二平方メートル

一〇 所在  同町馬場山田字瀧ノ上

地番  一〇五六番一

地目  山林

地積  一一九〇平方メートル

一一 所在  同町馬場山田字芋ケ洞

地番  一〇八〇番一

地目  山林

地積  二万五七八五平方メートル

一二 所在  同町馬場山田字真菰

地番  一一三三番一

地目  山林

地積  二万五二二三平方メートル

第二物件目録

一 所在  恵那郡山岡町馬場山田字真菰

地番  一一三三番一四

地目  山林

地積  九九一平方メートル

二 所在  同町馬場山田字大

地番  一一四〇番一

地目  山林

地積  九九一平方メートル

立木一覧表

所在地        割山番号 通番   所有者   立木番号   樹種   取得年月日

恵那郡山岡町大字馬場山田字石ケ洞801番1 (第一物件目録四の土地) 124 被割当者 訴外後藤 隆 1 2 3 4 5 6 原告前川幸雄 同上 原告池野雅道 同上 同上 原告伊東 栄 20 21 61 62 68 190 桜 椣 桧 栗 栗 桜 平成元年11月25日 同上 平成元年11月28日 同上 同上 平成2年1月21日

同町大字馬場山田字石ケ洞838番1 (第一物件目録五の土地) 171 被割当者 原告度會錦吾 7 8 9 10 11 12 原告前川幸雄 同上 同上 同上 原告池野雅道 同上 13 15 16 22 64 65 櫟 檪 櫟 櫟 椣 椣 平成元年11月25日 同上 同上 同上 平成元年11月28日 同上

同町大字馬場山田字真菰1133番1 (第一物件目録一二の土地) 253 被割当者 訴外後藤 隆 13 14 15 16 17 原告前川幸雄 同上 原告池野雅道 同上 原告永田智男 23 24 69 70 126 櫟 櫟 櫟 櫟 櫟 平成元年11月25日 同上 平成元年11月28日 同上 平成元年12月10日

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